彼は僕の親指をにぎって、そこから連れ出した。これ以上そこにいる理由もなかったけれど、僕はためらっていた。
「他の人たちを見つけなくちゃ」と彼は言った。彼は僕と目を合わせようとしなかった。僕たちは草原に入り、ボロ小屋を周って川へ下りた。ある理由から僕は一度もそこへ下りたことはなかった。
僕たちはコンクリートのトンネルに入っていった。暗いけれど暖かい。
音の一部が天井から漏れ聞こえていた。いまや、あの音楽が、また。彼は腰を下ろし、僕がそうするまで待った。
「これで、僕らは誰でもない」と彼が言った。
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