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タタタタタタタタ。駆けて来たのはMomo。(これがこの物語の主人公の名前。覚えておいて! 上唇へ下唇をくっつけて、鼻の内側を響かせながら口から――ォと息を出す。それを2度。も。も。)
辺りは草、草、草。Momoは耳をすます。耳をすます。
耳! 耳!
すると――
花!
Momoはにっこりと笑って花を見つける。彼女はくしゃくしゃの頭を揺らして、花へしゃがんだ。じっと見、じっと見る。
――こんな夜ふけに、どちらから?
花は風にさらさらとゆれる。
さらさら。さらさ、らさら、あっ――
雨粒。
見上げたMomoの顔に、霧雨のしぶきがかかる。さらさら。さらさら。
かぶりを振ってMomoは立つ。未明の空気は、ずいぶん冷えているが、Momoは平気だ。じょうぶなコートをはおっているから。鼻の頭は赤くして、少女は見回す。
くらやみ。くらやみ。くらやみ。くらやみ。じっと耳をすます。さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ。
「! くしゅっん!!」
袖口で洟をかんで、Momoは再び駆け出す。