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杉浦日向子『狼の眉毛の話』(『百物語』所収)及び民話『狼の眉毛』について、ノート




欲望はもちろん必要だし、本能ももちろん必要です。無くしては生きていけない、生命体の基盤です。ただ、本能「だけ」で生きているのでは動物と同じです。(私の紹介している話では「化け物」と言っていますが、「動物」と言い換えてもらって構いません。)
「本能」を統制する「理性」があって、人間のような「知性」をもった存在になります。

話は変わりますが、「社会」つまり「コミュニティ」とは人間だけでなく、ほかの動物も「群れ」のような形として形作るものです。ということは、「社会」という集まりは動物に起源のある集合体だということになります。
つまり、「社会」の元となる集まりはまず動物的な本能によって形成されるということです。
「社会」の基盤は本能的・動物的なものだということです。

話を戻しますが、では「理性」をもった人間が作る「社会」とは、「動物の社会」(群れ等)とはどのように違うのでしょう。

まずそもそも、動物社会の本質とは何でしょうか。
それは、私は「弱肉強食」ということだと思います。
たとえ群れのリーダーであっても、衰弱すれば群れの仲間に喰われ、地位を奪われる。
自力で生き延びる力のないものは生かさない。
それが動物社会のルールだと思います。
そしてまた、これが「社会」というものの原点であると思います。

とすると、本能を抑圧するものが「理性」だとするなら、「理性的な社会(人間社会)」のルールとは、まずこの原点を否定するところから出発しているはずです。
それはつまり「自力で生き延びる力のないものでも生かす。」ということです。
これが人間社会の出発点であると私は思います。
ここから、倫理・道徳・宗教・法といったものが生まれてきていると思います。

長くなりましたがここでようやく『狼の眉毛』の話に戻ります。
この話の「教訓」とは何だろうか? 主人公の男はどうして「真の人間」のはずなのに、あれ程の生きづらさを抱えているのか。

まず、「真の人間」とは何でしょうか。それは、今までの話から考えると「持っている理性を正しく働かせている人間」ということになると思います。それはつまり、さっき書いた「自力で生き延びる力のないものでも生かす」という考えを根っこに持って生活を送っている人間ということだと思います。

しかし、狼の眉毛ごしに主人公が見た世の中は、ほとんどすべての人が「動物(化け物)」であるという世界でした。それはつまり「自力で生き延びる力のないものは生かさない」という弱肉強食の原理で、世の中のほとんどの人は生きているという意味だととれます。

「生き延びる力のないものでも生かす」という相互扶助的な生き方と、「弱肉強食」の排他的な生き方とでは、どちらが気楽に生きられるのでしょうか。それは「弱肉強食」の生き方(「動物」になって生きること)の方なのだ、と『狼の眉毛』の物語では主張されていると思います。

「弱肉強食」の生き方とは、極端に言えば「殺すか殺されるか」というシビアでストレスの高い生き方のはずですが、理性的に助け合って生きるよりも動物的な競争し合いに身を任せて生きる方が私たち(人間)は気楽らしい。――それが『狼の眉毛』に語られている世界です。

『狼の眉毛』で語られていることとは、「人間性に対する失望」というようなことだと思います。「なんだ、「人間様」なんて偉ぶっていたって、結局ほかの動物と同じじゃないか」という諦観が、まず見えてきます。
しかし、本当に大事なのはその先ではないか――というのがいくつか前のツイートでリンクを紹介したある住職のブログ記事です。

以下その記事(http://blog.hourakuji.net/?eid=879623)から抜粋します。

愚かな男が、〈狼の眉毛〉を手放し、愚かしい妻と連れだって家へ向かうところに、『狼の眉毛の話』が持つ大切なポイントを感じます。
 いったん〈狼の眉毛〉をかざし、新たな視点でいつものとらわれから離れてみるのは一段のレベルアップ。
 そして、〈狼の眉毛〉を手放し、清々しい気持で日常生活を取り戻すことが、もう一段のレベルアップなのではないでしょうか。




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